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夕顔

第9章 男と女、約束の交わし方





みたかヅラ、一発決めてやったぜ。
と思いながら、なんの反応も見せない皐月に銀時は段々冷や汗をかきながら焦り始めた。

「あ、あの〜皐月さん?聞いてた?俺の声届いてる?」

腕の中、彼女の顔を覗き込むように銀時が少し顔を傾ける。
すると、胸ぐらを掴まれ、まるで頭突きする勢いで唇を合わされた。両者ともに目が開かれたまま。もし他の者が見ても、ガン付け合っているようにしか見えない。

だが銀時には、皐月の瞳の奥に滲む悲鳴にも似た助けが、確かに伝わった。彼女が、彼女自身にも言わない。その声を。



「男と女の約束はこうやってするものだぞ、銀時。…やり直しだ。」

「はいはい。」





皐月は嬉しかった。
ただ恨まれ、嫌われていると思っていた銀時に、まだ少しは思われていた。どんな野次にも堪えようと思っていたが、そんなことは一つも言われなかった。


「君ってやつは、本当に……。」

本当に、優しい。



僕が守っていた、追いかけていた白夜叉はもういない。
これからは一体何を見ていけばいいのか。


前がさらに暗くなった様に感じたその時、銀時の胸から聞こえる心臓の音を聞いて皐月は思い出した。






そうだ。
僕は、銀時が暖かい日の下で生きていればそれで良い。
そう思っていたはずだ。



いつからだろう。
強大な闇に呑まれ、虚に囚われ始めたのは。その虚の中に、僕は、自分ごと彼を引き摺り込もうとしていたのではないか。

守るどころか、失うことを恐れて一番銀時を壊していたのは、自分だった。


自身の大きな過ち。
未だ彼の腕の中にある身体が、少しだけ震えた。それは久々の恐怖だった。



「皐月、俺を信じろなんつー事はいわねぇ。けど、お前が守ってきたもんは信じろ。…それがお前の強さだ。」

守ったものなど、あったのだろうか。
もし少しでも何かあったとしても、それは結局君を信じろと言ってるようなものじゃないか。
そう思ったが、声には出さなかった。



…いいのだろうか。
銀時を信じても。今まで他を壊すことしかしてなかった自分が、彼に希望を持っても…。

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