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夕顔

第12章 夕顔







松下村塾をでると、もうすでに日が沈み始めており空は赤かった。

「本当に、懐かしいな。」

前を歩く彼女の傘を眺めながら、銀時も同じ事を思う。
景色を見る高さが変わるだけで、何もかも違く見えるのに、だからこそ変わらないものもはっきり見えた。

師への恩も。
仲間への思いも。
彼女への愛も。

大切なものは、あの時から何も変わってなんかいない。



そんな事を思っていた時、視界の端に白い花弁をつけた花が目に入った。銀時はそれを無意識のうちに摘み取る。

「……皐月、ちょいこっち向け。」

背後からいきなり声をかけられた彼女は、言われた通りにすぐさま振り向く。そして、彼の手にある花を見て目を見開いた。

驚いた皐月の顔を、少し笑いながら見下ろす銀時。
いつかの日のように、彼女の髪をといて耳にかける。


すっと花をさしたのは、間違いなくあの日と同じ側の耳元。
決して何があろうとも、あの野郎と同じ方になんかはささない。


皐月はそっと花弁に触れた。
大きくて、柔らかい。
陽にあたっていたからか、暖かい。


「銀時、これは何の花だ?」

「あ?かんぴょうに決まってんだろ。」


このやろー。という銀時。
何年経っても、子供らしいなと思った。

でも、それが嬉しかった。



「銀時、ありがとう。」

夕顔の花と咲く笑顔に、銀時も笑った。


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