第8章 好きな人へのプレゼント選びは慎重に
死の翼を持つ真の八咫烏の通った道。
そこには生も、死すらも残らない。
真っ暗な空、真っ暗な海。
そこに浮かぶ真っ黒な島。
夜兎であり、烏であり、
日陰で生きてきた自分にはお似合いの場所だ。
船頭に立つ虚の少し後から、皐月はその島を見下ろす。
朧は先に上陸しているとの事。
距離があっても彼女の鼻は誤魔化されない。朧の居場所も、銀時の居場所も。
どんな形であろうとも、彼に吉田松陽を返す。
たとえそれが、うつろな化物であったとしても。
やっとこの八咫烏が地上へ降り立つのだ。
そこには、銀時。君が居てくれないと、今まで僕が我慢して耐えてきた事が報われない。
ここからだ。
ここからやっと、僕の番だ。
やっと、君に松陽を返す準備ができる。
皐月はアルタナの一片を力強く握りしめた。
船の頭が島の端を捉えた位に、皐月は虚の前へ出て船の淵に足をかけた。
「全く、せっかちな兎だ。……地球産だけで構成された中、唯一の外国産。」
楽しみにしていますよ、と肩に手を乗せられた瞬間。
彼女は初めて、自分にも戦う前に死をみる事があるのかと学んだ。
「僕は貴方の烏です、虚様。亡霊を追っている、彼とは違う。」
そう言って皐月は、砲撃が撃たれてる直前、朧と銀時のいる崖に飛び込んで行った。
一応、と思って持っていった愛着ある傘は、骨組みを残して塵となった。張り替えたばかりなのに、また張り替えか、と嘆く彼女の背後には朧。
「朧様にこれ以上、死手前のお怪我を負わせる訳にはいきませんから。」
「…あの人が来たな。」
朧は静かに崖から虚を迎えにいく。
残ったのは落ちた兎と、崩れた瓦礫に埋もれる焼け焦げた腕。