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夕顔

第8章 好きな人へのプレゼント選びは慎重に






今思えば、そんな事はあり得ないと分かる。
一度死んだ人間が生き返るなんて、世の理から外れすぎている。

だが、あの虚の血はそれを可能にする。






「皐月様のそのお姿、お会いした時以来でしょうか。」

懐かしいですね、というハルの前、彼女も同じ事を思っていた。

事実、何年ぶりに袖を通したか。
この烏の衣に。



「ハル、こちらへ来なさい。」

従者である彼に命を下す事は多い。
時に雑用。時に殺人。時に身の回りの世話。

だが、普段とは違う、とハルは瞬時に察知し、皐月の前に跪いた。


「……この任務から、君を僕の傍から離すことにした。」

「は…………?」



一瞬理解のできない言葉に、思わず言葉が漏れた。


「い、いや、それはどういう、」

「どうもこうも、元に戻るだけだ。僕も、君も。今日からこの時をもって、ただの烏に戻る。それだけだ。」


奈落の烏が使えるは天。
それに仇なすは鬼。


「君の主君は誰だ?玄。」

今まで、初めて会った時以来、皐月には一度も呼ばれてこなかった彼の奈落での名。ハルはついに何の反応も見せられなくなってしまった。







攘夷戦争終結も間近に見えた頃。
白夜叉に業を背負わせてしまった後。

彼女は朧の元にいた、奈落で生まれ育った子供たちの中から、任務の為の引き抜きを行った。


朧が彼女に一人なら連れて行ってもいい、と言った。
最初、そんなつもりは無かった皐月だったが、一人の少年を見て思い直した。

似ても似つかないその少年。
しかし、何も映さずただ死を見つめるその瞳に、いつかの自分を合わせてしまった。その瞳の色が、彼女の愛したものにそっくりだった。


「君、何と呼ばれている?」

「玄。」

「玄、か。玄…、しずか……。」

少し天を仰ぎ見る皐月を、ただ何の感情もなく見つめる。
しばらくした後、彼女は子供の前に膝をついて目線を合わせ、その手をとる。


「君の名、"玄"という字は、はる、とも読む。名は体を表すものらしい。君はきっと、春のように優しく、暖かい子になれる。」

だから、僕の隣にいる間の君はハルだ。


そう手を引かれ、宇宙に連れられた日を、ハルは一日だって忘れた事はない。
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