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失いたくない者

第3章 死不川実弥の話。


【Side実弥】

俺の父親は屑だった。死に際もそれはそれは屑のために存在するようなものだった。情もない。まともに金は寄越さないくせに、当然のように母や俺達兄妹を殴っていた。力がつくにつれ、俺も父親を殴った。大好きな母ちゃんたちを守りたかったから。

日に日に父親に似ていく自分の顔が嫌いになっていった。なぜ、下の弟たちは、母に似て穏やかな顔つきなのに、俺だけ父親のような風貌なのか。遺伝子を恨んだ。

俺の家が貧しかったのも、貧しいくせに兄妹が多かったのも、所謂、経済的DVだと、歳を重ねて気づいた。母が、働くと言って聞かない俺をビンタしてまで教育を受けさせてくれたからだ。思えばずっと不思議だった。普段は穏やかな母だが、本気を出せばそこそこ力があるのに、あの男の言いなりだったのも。情もなくなっていたはずなのに兄妹が増えていったのも。学んでいくうちにわかっていった。父が、自分から逃げられないようにするためだと。それでもそんな屑の子を愛してくれた母はどこまでも強く、そして父はどこまで屑だったのだろう。

俺は、そんな人間になりたくない。
愛おしい者に、愛おしいと伝え、愛を育みたい。

もう、大事な人間を失いたくない。

…“もう”ってなんだ…?
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