第2章 プロローグ
【Side奏】
私は、玄弥という男を知っている。何故なら、私には【前の】記憶が全てある。どうして実弥に言わないのかって?
玄弥が死んだのは私のせいだから。
私が、上弦の壱に捕まってしまったから。無一郎君も、玄弥も…。実弥はいつも、玄弥が塵になってしまった瞬間だけを夢に見る。そして目が覚めると、その瞬間さえもあやふやになっている。それをいいことに私はいっさいの口をつぐんだ。
【前の】世界でも私は実弥と恋人関係だった。だから、今の鬼のいない世界に産まれて、また実弥に会えて、実弥には記憶が無かったのに、また恋に落ちれたことが嬉しかった。
だけど、不思議なことが1つ。【前の】世界で死んでしまった実弥の母、妹、弟たちは確実に実弥の家族として転生しているのに、何故か玄弥だけはそれをしていないのだ。
鬼喰いをしていたからなのか?それとも死に際が異例だったからなのか…詳しい理由は分からない。しかし現に、こうやって、玄弥は周りに存在していない事実が残っている。