第4章 ???の話。
俺はこの世界に来る前、神様とやらに頼んで、『兄ちゃんの弟にしない』ことにしてもらった。大体の人間は自分の愛おしいものの近くに行きたがるらしい(前世で大罪をおかした者の願いは聞き入れられないことがほとんど。と付け加えもされた)のだが、俺は、兄ちゃんが好きだからこそ、兄ちゃんから離れた。兄ちゃんは家族が好きだから、兄妹みんなをあつめると思う。だけど、俺は…
鬼を殺すためとは言え、兄ちゃんの嫌う鬼喰いをしていた。
兄ちゃんを独りにしてしまった。たった二人、残った家族だったのに。俺が、鬼なんかに負けてしまったから。
『神様っ!!神様!!!玄弥を!!!連れて行かないでくれ!!!!!』
兄ちゃんの、悲痛な叫びが絶命する前に聞こえた。兄ちゃんは、俺が鬼殺をすることを嫌っていた。というより、辞めてほしかったんだ。危険で死と隣り合わせで、俺は呼吸も使えず、鬼殺の才能がなかった。薄くでもいいから、呼吸が使えていたらまだ違ったと思う。兄ちゃんと、肩を並べて戦いたかった。才能ないのに、ですぎた願いだったのかもしれない。
今世で俺の両親となった黒川夫妻は、とてもいい人たちだった。ただ、なんの因果か、俺が高校に入学するのを見送ると、二人とも車の事故でぽっくり逝った。他に頼れる身内はいない。露頭に迷うと覚悟していたところに、大家のばあちゃんが身元引受人を名乗り出てくれた。衣食住に困ることはなくなったが、世話になるだけにも行かないので、ささやかながらアルバイトを始めた。高校に入ったら必然的にするとは思っていたが、重みが違うなと思ったのが、素直な感想だった。