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戦国ヒロイン【織田家】

第3章 時代の革命児


その後我々は書物を開き、戦場に見立てた机の上で様々な献策を語り合った。彼女の策はどれも的を射ているもので、完璧と言わざるを得ないほどだった。

「ここは魚鱗の陣でつつけば、直ぐに崩れる」

「成程。しかし左背後には、山頂に布陣している武将がいる。魚鱗の陣で長くなった陣列はどうするんだ?」

「この広さだと、北東と南西に伸びる陣列になる。それを逆手に機動力を生かした陣形をとる」

「車懸の陣か。だがそう上手くいくのか?中心から号令するとしても、ここまで隊列が伸びていると声が届かないだろう」

「逆手にとると言っただろう。車懸ではない。隊列を分断させ、敵の目を一つの部隊に集中させる。敵も好機と思い山から降りてくるだろう。そこをもう一方の部隊が付く」

「空蝉の計…。槍ぶすまの横槍か。良くやる」

「いいや、確かに私の策は確実に敵を殲滅させられるだろう。だが、頼継殿のように少ない犠牲での勝利ではない。この軍略だと少なくとも、1000の犠牲はつく」

完璧な軍略ではあった。しかし俺と違う点は、彼女は“犠牲を作り完璧な勝利”。俺は“犠牲の少ない半分勝利”の違いだった。
この戦国には前者の考え方をする武将も少なくはない。しかし、それは兵を駒として扱うことに等しくただいたずらに兵力を疲弊させるだけだろう。これから乱世を生き抜く為には、後者の考え方が必要になってくる。

「つくづく信長殿が恐ろしい。頼継殿、あなたのような人材が多く集まるなど」

「信長様が自分の好みに合う者たちばかりを選別しているだけのこと。信長様が自主的に集めているだけに過ぎませんよ」

「その中でもあなたは別格の扱いを受けていると、傍目から見えるけど」

「さあ、どうでしょうね」

義春殿の仰る通り、俺は良く扱われている。悪く言えばえこひいきだ。
ただ信長様がいつか『私の家族のようなものだから』と言われたことを思い出した。実母の信秀様からは寵愛されているが、戦続きで会う機会が少ない。育ての親の土田御前は信長様を快く思っていないようで、愛は全て妹の信勝殿に注がれている。
歪んだ環境で、人の温かさに触れることが出来る唯一の人物は、事実上で俺しかいなかった。だから昔からある意味で特別扱いを受けているのだろう。
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