第3章 時代の革命児
「…華」
「ん?」
「華…。私の…名前」
「華ちゃんか。いい名前だね」
そう語りかけると、一瞬だけ雪のように白い肌が赤く染まったような気がした。
「何で華ちゃんは家に入らないの?」
「…迷惑…かけちゃう…から。私…なんかが…居たら」
「そんなに卑屈になることもないんじゃない?」
「だ、だって…私…力無いし…力働き…できない」
「真面目なんだね。偉いね華ちゃんは」
頭を撫でようと手を伸ばしてみた。警戒して手を振り払われるかと思ったが、意外とすんなり受け入れてくれた。優しく撫でる。はっきりとは分からないが、目を瞑りながら少し微笑んでいるように見えた。
「お兄…さんは何で…武士のお家に?」
「何でかな…。すごく曖昧なんだ。何で俺が選ばれたのか良く分からないよ。特に理由も無いみたいだし」
「へぇ…」
(………)
そうだ、この子は行くあても無いんだ。しかも今日明日生きていけるか分からない瀬戸際を渡っている。真面目で優しい子が生きづらく、農民から年貢を搾取し続ける頭の足りない武士が蔓延るご時世なんて、馬鹿げている。
「ねえ。華ちゃんさえ良ければ、俺のところに来ない?」
「え…。でも、私…働けない」
「別に対価なんて求めてないよ。純粋にキミに生きてほしいんだ。広い庭もあるし、おもいっきり遊べるよ。沢山本もある。文字の読み書きも教えられる。ただ華ちゃんさえ良ければの話だよ。無理強いはしたくないしね」
急で驚かせてしまったかな…。というか、端から見れば少女に『ウチにこないか?』なんて、気持ち悪いにも程がある。
「………」
「まあ、嫌ならいいんだ」
「ううん、行く。行かせてください」
座っていた少女は腰を上げて、先程までとは違った生気に満ちた瞳で俺を見つめてきた。
俺は華という名の少女を城に連れて帰った。自室に通し、読み書きだったり最低限度の作法を教えた。想像以上に飲み込みが早く、すぐに他の武士たちの前に出せるくらいだ。
信長様は怒った様子で俺に問いただしてきたが、納得していただけた。今日から新しく城に、かわいい住人が参入してきた。