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戦国ヒロイン【織田家】

第3章 時代の革命児


「頼継殿、あなたたちならばこの戦国乱世に終止符を打てるかもしれないな」

「いつか終わらせてみせる。それが私たちの夢だからな」

那古野城の一室に、生ぬるい風が吹く。8月の湿っぽい風だ。夕暮れで空が赤く染まる頃、我々の主君の甲高い声が耳に入ってくる。鷹狩りで走ったのだろう、額に汗が輝く。わだかまりも無く、二人は知古の友のように隣に並びながら帰ってきた。
別れを惜しむような顔をしながら、竹千代殿は義春殿と共に、熱田の屋敷へと帰って行った。

日も沈み、熱帯夜が那古野城を包む。じめじめした湿度が身体にまとわりついて、汗をかく。

「随分と親しげに喋っていたじゃない」

妙に高く張った声を響かせる。その顔はどこか不満、不服そうな表情だった。

「織田家と松平家の今後について、語り合っていただけです」

「でもあんな笑った顔、私に見せてくれたことも無いのに…」

頬を脹らませながら更に不機嫌な表情で俺を見つめてきた。ただの子供のように、人に甘えてくる感覚だった。今までも、不満をぶつけてくることもあったが、ここまで嫉妬の念を正面からぶつけられたことはなかった。

「すみません、信長様」

「謝れば解決する訳じゃない!」

突然抱きついてきた信長様を受け止める。両腕を腰の後ろに回し、がっしりと掴んでいる。自分のみぞおちに信長様の顔があるくらい、まだ信長様は小さい。昨年裳着を行ったからといって、完全に成人した訳ではない。

「信長様…苦しいですよ」

顔をぐりぐりとみぞおちに擦りつけるように、強く頭をぶつけてきたり、腕の力が強くなってきたりと、普通の少女とは違う力があることがひしひしと伝わる。

「だってぇ…」

上目遣いで大きい黒い瞳を向けてきた。薄く桃色に帯びた唇は、文字通りへの字に曲がっている。勿論可愛い。

俺は昼の分まで、今晩信長様と二人の時間を取ることにした。
鷹狩りの話。水泳の話。竹千代殿の話など、瞳を輝かせながら色々なことを語ってくれた。先程のムスッとした顔はどこへやら。今日あったことを、拙いながらも一生懸命に話して伝えようとする幼い童女がそこにいた。

信長様との時間は夜遅くまで続いた。
話した内容は記憶していないが、肩が触れるような距離で微かに鼻腔燻る甘い花のような香りに理性を保つのが精一杯だったのを覚えている。
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