第3章 時代の革命児
ある日、俺は一人で町を歩いていた。たまには一人の時間が欲しくなる。
肌寒い風が吹いている。その風に黄金色に輝く稲穂がそよぐ。もう米の収穫時期に入ってきたようだ。どうやら今年は豊作なようで、農民たちも満足している様子。我々武士たちは農民がいなければ生きていくことができない。それを理解している大名はどれほどいるのだろうか。いや、頭では理解している人たちは多いかもしれない。しかし現実は農民を酷使する大名が多そうだな。それは農民をただの労働者としか扱ってしかいない人たちと同じだ。明らかな凡愚だ。
なんてくだらないことを考えながら、のどかな民家を通る。子供たちの遊ぶ姿が見える。
(懐かしいな…。俺も農民の頃はあんな風に遊んでたっけ…)
元々農民の家に生まれた俺はある日、散歩に来ていた信秀様に拾われた。理由は分からないが何かを感じとったらしい。根拠も理由も何も無いが、実際生活が豊かになったことは感謝している。その恩義に報いる為にも、信秀様のご子息の信長様にお仕えしている訳なのだが…。
遊ぶ子供たちの前を通り過ぎようとした時。
「お兄さん。僕たちと遊ぼ!」
「遊ぼ遊ぼ!」
と声を掛けられた。
「こらお前たち!…申し訳ありません、頼継様もお忙しいでしょうに…」
近くにいた女性が子供たちを静止させ、声を掛けてきた。この子供たちの母親だろうか。長い髪を結って動きやすそうな格好をしている。
「いえ、構いませんよ。良いよ君たち、遊ぼうか」
「うん!」
特にするあてもなくフラフラと歩いていただけだ。子供たちと遊ぶのも悪くない。母親がすみませんと、頭を下げてきたのを止めさせながら、少年らと何をして遊ぼうかと練っていた時、家の外壁の隅にいたもう一人の子供を見つけた。
「あの子も奥様の子供ですか?」
と尋ねた。すると女性は眉をひそめて話した。
「いえ…。あの子は…」
聞いたところによると、あの子は親に捨てられたらしい。捨てられたというよりかは、道具として売りに出されたと言った方が正しい。食べ物に困る家に生まれたようで、親は金欲しさに子供を他の家に売りに出したようだ。その後、どうにか逃げ出してきた、という話だった。