【IdentityV】ゲーマーでオタクで何が悪い【第五人格】
第3章 ハンターに会いに行こう。
風呂は思った以上に広く、シャワーや入浴できるスペースも完備してあった。
強いて文句をいうなら、シャンプー安もんだなくらい。お陰様で髪ボッサボサ。
男だろ気にすんなとか言われそうだけど、俺は身嗜みだけは整えろと親父にきつく言われていた。今目の前に親父が居ないとしても、あの恐怖だけは忘れられないので髪をしつこくといて、綺麗にする。
ポニーテールに出来るほどの長い髪なので、面倒臭いったらありゃしない。
けれど病死した母が、病棟で子供の俺の髪をといてくれたのが忘れられなくて、女々しいけどずっと伸ばしている。お陰様で腰まで黒髪が伸びている。よくリッパーに切られなかったな。
そう不意に考えてしまうと、メンタルはガラスより弱いので、悲観的になってしまうのが俺の辛い所。親父、残して俺はここに来てるのかと思うと、親不孝なことしてるなと目頭が熱くなる。
メンタルは鬼程強い親父だ。悲観して自殺とかは無いだろうけど。
ダメだダメだ。考えるのはやめよう。
こんな所見られたら親父にゲンコツくらう。
綺麗なストレートヘアになったら、ゆっくり浸かり、風呂を後にする。ノートンは終始黙り込んで凝視してきたが、なんか怖いから苦笑いしてその場を去った。
風呂を上がり、よく拭いてから用意してきた着物に着替える。
髪をすかして鏡を見ると、遊女の花魁にしか見えないのはこの着物と母親譲りの顔のせいだと思う。
にしてもコーラが飲みたい。無性に。
いつもならそろそろ布団入ってコーラ用意して部屋暗くして試合モードなんだよなぁ。
そんなこと叶わないけどと思いながら自室に戻る。
と、その途中でひとつ思い出した。
「リッパーに返してないじゃん。コート」
外を見ると赤い満月がやけに非現実感を醸し出していた。
鴉が飛び回り、外の枯れ木が人の顔にも見える。
うん、怖い。とてつもなく怖い。
明日にしようか。いやしかし、試合中返すわけにも行かないし。せっかく選択したし。
…………
「……しょうがない。腹をくくれ俺。」
洗濯機の中に放り込んでいた、乾いているコートをしっかりアイロンをかけて折りたたみ、目立たないように自室に何故かおいてあった俺お気に入りの消臭スプレーをかける。ファ〇リーズだぞ。