第2章 ②
例え断られても「野球以外考えられない」これならまだいい。
しつこく連絡先を聞こうとしたり、何度も言い寄る女子生徒にはあの倉持でさえ震え上がるような声と雰囲気で「お前になんか興味ない」と凄むのだからそりゃ女子生徒も泣き出す。
だからか、もう御幸に告白しようとする猛者はさすがにいないが、それでも練習中、特に後輩からは「御幸せんぱーい!」なんて黄色い声援が上がることもしばしば。もちろん、御幸はガン無視なのだが…
そんな野球バカ…いや、野球一筋の御幸がボーッとするなんて、熱でもあるのか?まさかまた怪我?と倉持が焦ったことを御幸は知る由もなかった。
なぜなら御幸自身が気付いてないのだから。
ぼんやりつむじを見ていたことも、吹奏楽部のことを考えていたのも、守山の顔を思い出していたのも。
午後からの練習。グラウンドには部員達の声が響いている。
御幸もまた大きな声を出し、午前中のことなどすっかり忘れて練習に打ち込んでいた。
「よーし!一旦、休憩だ。」
監督のその声に部員達がマネージャーの作ったスポドリに集まる。
「はい、御幸先輩。お疲れ様です。」
ああ…といつものようにコップを受け取ると一気にそれを流し込み汗を拭った。
ふと見上げた空は綺麗な青空。春の空気を纏った爽やかな青。
その時、聞こえて来たのは音楽。それは今まで気付かなかったような小さな音だが、確実に吹奏楽部が演奏している音楽。