第7章 ⑦
ははっ…乾いた笑いが二人きりの屋内練習場に響く。
ゆっくりキャッチャーマスクを外すと沢村に近付いた。自分を見上げる沢村は真っ直ぐに見つめ続けている。その額に思いっきりデコピンしてやった。
「いってーー!何するんすか!!」
「バーカ。何勝手に人の心覗いてんだよ。心配しなくてもお前らのことは信頼してるよ。じゃなきゃ甲子園なんて…全国制覇なんて目指せないだろ?」
「でも…」
「まぁ、でもそうだよな。ちゃんとケリ着けないとな。いつまでもこうしてる訳にもいかねぇよな。心配すんな。本選までには決着つけるよ。」
「その時にはこの沢村栄純……!」
「バカ!お前は入ってくるな。バカ。余計にややこしくなる。バカ。」
「今、2回もバカって言いやしたね!?」
「バーカ。3回だよ。」
「ぬぉぉぉ!また!!」
それは久しぶりの御幸の心からの笑顔。崩れそうな心を支えてくれるのはやっぱり信頼できるチームメイト。可愛い後輩。そして……
沢村とじゃれ合いながらも御幸の目線はチラリと外に向いた。そこには屋内練習場から遠ざかる背中。
「ありがとな。倉持。」
「ん?なんすか?キャップ?」
「うるせぇ!さっさと10球投げろ。」
「よーし!ではナンバーイレブンいきやす!」
もう一度キャッチャーマスクを被るとしっかりと構えた。
ボールがミットに収まる乾いた心地好い音が響く。
足掻きながらも御幸は前に進もうとしていた。