• テキストサイズ

碧空(あおぞら)【ダイヤのA】

第6章 ⑥


5時間目の予鈴が鳴り何とか心を落ち着かせると教室に戻った。それでも当然だが永原は隣の席にいる。

その姿にまた心臓が音を立てる。それは高鳴りなのかドロドロした嫌な感情なのか。この時、初めて自分が分からなくなりそうで恐怖を覚えた。

「御幸くん?大丈夫?顔色が悪いよ。熱でもあるんじゃない?」

御幸の顔は青ざめていた。その様子を心配そうに見つめる永原。その手が御幸の額に伸びて来たが反射的にその手を叩き返してしまった。

「やめろ!」

突然の御幸の大声とパンッと響く乾いた音。クラスの誰もが振り返った。と同時に自分が何をしたかに気付き我に返る。

永原は御幸に伸ばしていた右手を押さえ怯えるような目を向けている。その手は少し赤い。
プロも一目置く強肩キャッチャー。野球を続けて握力も一般の高校男子よりずっと強い。
そんな御幸の一撃が女の子の華奢な手に入ったのだ。下手をすれば怪我しかねない。

「あ…いや……」
「ごめん…私…」
「おい、御幸!どうした?大丈夫か?永原。」

倉持が血相を変えて御幸と永原の間に入る。その姿は普段の倉持からは考えられない焦り様。それほどまでに御幸の様子が違ったのだ。

「あ…私は大丈夫だけど御幸くんが……」
「俺も大丈夫だ。それより…」
「御幸、とにかく保健室行くぞ。永原も。」

倉持に半ば強引に腕を掴まれるとグイグイと教室から連れ出された。永原もその後に続く。

保健室に着いたがその日は運悪く保健室の先生が休み。倉持は保冷剤をタオルに巻いて永原に渡すと教室に戻るよう促した。永原は振り返ることなく保健室を後にし、残された二人には長い沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは御幸。

「別にどうもねぇから俺も帰るわ。」
「どうもねぇワケないだろ。真っ青な顔して女子に手を上げるってどういうつもりだ?万が一、永原に怪我でも負わせてたらどうなるかくらい分かってるだろ。」
   
/ 35ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp