第6章 ⑥
そんなことを思いながらスコアブックを開けようとした瞬間、名前を呼ばれた。
「御幸。」
それは男の声。誰か分からなくて振り返るとそこにいたのは守山。ほぼ接点のない守山に声を掛けられ普通に驚いた。
「守山?何か用か?」
「少しいいか?」
守山が御幸に一歩近付くとその目を真っ直ぐに見てきた。真面目で優しい雰囲気と聞いていたその男の雰囲気は決して穏やかではない。まるで、御幸に敵意を向けているような挑戦的な目。
「何だよ?」
「永原さんのことなんだけど。」
「永原のこと?」
「ああ。俺、永原さん狙っていいかな?」
「……は?」
狙うと言うのはもちろん男として友達以上の関係になろうと言うこと。
だけど、御幸には分からない。何故そんなことを自分にわざわざ聞いてくるのか。何故そんな挑戦的な目を向けてくるのか。
「意味分かんねぇな。何で俺にそんなこと聞いてくる。」
「え?だって御幸も永原さんのこと狙ってるだろ?」
「はぁ?」
「なんだ、無自覚かよ。まぁ、それならいいや。昼休みの邪魔して悪かった。」
一方的にそれだけ告げると守山は行ってしまった。残された御幸は訳が分からない。だけど、心臓がまたドクドクと嫌な音を立てる。
守山が永原を…?アイツが守山の横に?
その光景がありありと思い浮かべば耐え難い苦痛が襲う。屋上の手すりにもたれ項垂れるようにズリズリと座り込んだ。
そして、気付いてしまった。自分の想いに。自分の感情に。何故、今まで心が乱れていたのかを……
「マジか………」