第6章 ⑥
結局、翌日の練習で永原に会うことはなかった。だけど、遠くから聞こえる音楽がそこに永原がいることを教えてくれていた。
「次、ナンバーセブン!」
「はい!」
「もっとしっかり腕振り抜け。」
「はい!」
沢村の投球練習をしながらも遠くから聞こえる音楽。心は凪いでいる。白波は立たない。
しっかりと正捕手としてキャプテンとして今はただ沢村と向き合っている。沢村もまたエースを目指す投手として御幸と向き合っている。
ただ、沢村は感じていた。この人の中で何かが変わり始めていると。それがいいことなのか、悪いことなのか沢村には見当もつかなかったが。
GW明けの学校。いつもの日常が戻る。御幸もまた野球と勉強の日々に戻される。永原も同じ様に御幸の隣に座って。
その日の昼休み、御幸は校舎の屋上に出た。
いつも昼休みは教室でさっさと昼食を済ませてスコアブックを見るのが日常。あと、たまに昼寝。
昼食と言っても大概、パンやおにぎり程度。朝と夜は寮でエネルギーと栄養バランスの考えられた食事を取っているから昼は手軽に済ませて好きなことをしたかった。
だけど、天気の良い日はたまにこうして屋上で過ごす。と、言っても教室で過ごすのと何ら変わらないのだが。
屋上に出てふと空を見上げるとそこは初夏を感じさせる濃い青。GWも終わりいよいよ夏の本選が迫っていることを教えてくれている。