第5章 ⑤
永原を嫌い……そんなことはない。永原を見てると心が乱れる。野球をしてる時だけは忘れていてもその姿は遠くからでも、例え後ろ姿でもすぐに見つかる。いや、知らずに追っているのかもしれない。
「ごめん…」
「どうして謝るの?」
「いや、何か態度悪かったみたいだから。」
「それだけ野球に向き合ってるんだよね。私の勘違いだって分かったから安心した。じゃ、また明日、学校でね!」
「え?明日まだ休みだろ?」
「私も練習で学校行くから。会えるかは分からないけど。じゃあね!」
笑顔で手を振り駆け出そうとした永原の手首を思わず掴んだ。
分からない。何故、俺は今コイツの手首を掴んだ?細く華奢な手首。俺の力でなら簡単に折れてしまうのでは?と思えるほどに。
安心した…その言葉の意味は?俺はコイツにとって怖い存在だったのか?頭の中がグチャグチャになって何かを言いたい、聞きたい…なのに何も言えない。
「御幸くん?」
その声にまたはっとして反射的に掴んでいた手を離した。取り繕わないと。何か言わないと。
「あ、いや、送ってく。暗いし危ないだろ?」
「あ…大丈夫だよ。私の家、そこの角のマンションだから。」
永原が指差す方向には確かにエントランスの明かりの漏れるマンション。ここからでも入り口がはっきりと見える。
「そうか…悪ぃ。」
「ううん。ありがとう。あ!そうだ!これ、はい。」
「え?」
コンビニの袋からゴソゴソと永原が取り出したのはエネルギーゼリー。しかもプロテインタイプ。それをそっと御幸の手に、包み込む様に渡した。