第4章 ④
その日、遠征から帰ってきた日。時刻は夕暮れ時。グラウンドは夕日に照らされ赤く染まっている。
「1年!ちゃんと用具片付けておけよ!」
「はい!」
バスが到着し続々と降りてくる一軍メンバー。その中にもちろん御幸もいる。
1年生は先輩に言われた通りラゲッジスペースの用具を取り出しては片付けている。
御幸は肩に自分の荷物を持ちバスを降りるとグラウンドを見た。
軽く自主練するか…いや、それより遠征試合のビデオを見直すか…そんなことを考えて歩き始めた瞬間、ドクン…と心臓が嫌な音を立てた。
それはドクドクと御幸の体中を巡り、練習や試合で流す汗ではない嫌な汗がジワリと滲む。
御幸の視線の先。そこを歩く二つの影。夕日に照らされ長く延びるその影の正体。一つはすぐに分かった。
永原だ。
恐らく吹奏楽部もこのGWに練習があったのだろう。
制服を着て手にはクラリネットのケース。
きっと部活終わり。今から自宅に帰るところのようだ。
だけど、問題はそこではない。
永原の隣。そこにはもう一人。永原より背が高く優しい雰囲気。
野球をしてきた自分とは違う細い線。守山が一緒に歩いているのだ。
普段からメガネをかけ、決して裸眼視力は良くない。なのに、やけにはっきりと見える。
二人が楽しそうに話しながら歩いているのが。