第3章 ③
「俺、一応キャプテンで4番。東京選抜に選ばれたり、いずれはプロ入りか?何て言われてるんだけど。」
「あ…ごめん。野球って見ないから全然知らなかった。凄いんだね。御幸くんて。」
ニヤリと笑うと申し訳なさそうに、だけど、素直に知らないことを話し、お世辞かも知れないが凄いと認めてくれる。
それは何だか少しくすぐったい…心で思わずクスクス笑っていた。
これだけ聞けばよくあるクラスメイトとの会話。何てことはない。それこそ1年の頃なんてよくそんな会話もあった。
「永原……」
「あ、そう言えば、昨日の部活どうだった?」
御幸が何かを言いかけたところで、それをクラスメイトの声が遮った。
だけどそれで良かった。その声にはっとしたのは御幸。自分は今、何を聞こうとしていた?何も考えずに永原の名前を呼んでいた。
そんな先を読まないことなど、野球でもプライベートでもない。
普段の会話まで先を読もうとするなんてもはやキャッチャーの職業病か?と自分で笑ってしまいそうになることもあるほど、御幸という男は根っからの野球人でキャッチャーで全てをそれに捧げている。
そんな御幸が思わず口にした言葉。
自分で驚いた。それは昨日の沢村の投球練習に付き合うことになったあの時のような…
その日の授業が終わればまたグラウンドへ向かう。当たり前の日常。
カバンに教科書を入れると「バイバイ」「また明日」と言い合ってるクラスメイトの間を抜け廊下に出ようと教室の扉へ向かう。そこにいたのは守山。思わず御幸の眉がピクリと動く。
守山のクラスは隣。用もないのにここに来るはずもない。昨日の会話が甦る。
『あ、だったら部長の守山くんとこ連れて行ってあげる!友達だし。』
『え?ホント!ありがとう!』