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碧空(あおぞら)【ダイヤのA】

第3章 ③


そう言えば、永原は昨日そのまま吹奏楽部に入部届けを出したと休み時間に友達に話していた。

「永原さん!」

やっぱりそうだ。コイツは永原を迎えに来たのだ。それはきっと守山の優しさ。転校してまだ二日目。初めて参加する部活。そんな彼女をエスコートするべく守山はここに立っている。

「守山くん。ごめんね、ありがとう。」
「気にしないで。」
「あ、御幸くん。バイバイ。部活頑張ってね。」
「あ、あぁ…」

御幸とすれ違い様、永原は御幸に微笑み手を振った。
永原は朝に聞いた通り御幸が野球部のキャプテンとして頑張っていると思ったのであろう。きっと深い意味はない。

それでも自分の前を歩く二人を見ると心がざわめく。いつでも凪いでいるはずのその心が白波を立てる。

「クラリネットは?」
「これ。昨日ちゃんと手入れしてきたんだ。」
「んじゃ、早速だけどこれが楽譜で……」

それは同級生として、同じ部活の仲間として特段変わりのない会話。なのになぜ自分はその会話に釘付けになっている?

思わず眉間に皺が寄ったその時、守山がチラリと御幸を見た。一瞬、目が合いピクリとしたが倉持や前園の声がして二人を追い越して歩き出した。

おい!御幸待てよ!と倉持や前園が言っていたが無視した。今はこの顔を見られたくない…何故かそう思ってしまった。

大丈夫。ユニフォームに着替えればいつもの自分だ。

そう言い聞かせながらズンズンと先を歩き部室へ急いだ。
練習用のユニフォームに着替えパタンとロッカーのドアを閉める。

ほら、大丈夫だろ?いつもの俺だ。メガネをスポサンに変え帽子を被る。

ふぅ…と一息つけばそこにいるのは確かに御幸一也。青道高校4番でキャプテン、将来を嘱望される天才キャッチャー。

グラウンドに一歩踏み入れば全ての思考は野球へと向きさっきの白波が収まる。

何だ。やっぱりいつもの俺だよな。そんな小さな呟きに気付く者はいなかった。
   
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