第2章 生きてる感じ(真波山岳)
「いやぁ、真波くんやっぱり速かったね!」
そんなことを笑いながら言っている彼女はオレよりも早く山頂についていた。
「茉璃さんの方が速かったじゃないですか。ロード、本格的にやってたんですか?」
オレが彼女にそう聞くと一瞬困ったような表情を見せる。
「昔、ね。今はもう趣味程度だよ」
趣味程度にしていての速さを維持できるものなのだろうか。
でも、それ以上に気になったのは彼女の表情だ。
なぜか悲しげな表情をしている。
オレが不安そうな表情でもしていたのか、彼女は無理に笑ったような表情を浮かべながら過去を語ってくれた。
彼女は小学生の頃から様々な大会で一位を勝ち取ってきたらしい。
中学に上がり自転車競技部に入ってもその実力は衰えることなく、すぐにレギュラー入り。
1年生のうちから大会メンバーにエントリーされるほどだったようだ。
だが、それを面白く思わなかった部員もいたらしい。
その一部の部員から壮絶な嫌がらせを受けたと言う。
そして、決定的になったのは中2の夏の大会。
気温が30度を超える炎天下。
彼女はなんとか嫌がらせにも耐えレギュラーを維持し大会に出場した。
だが、嫌がらせは終わってはいなかった。
給水ポイントで受け取ったドリンクボトルは全て空。
山でチームを引くというオーダーも叶わず、その前に熱中症で倒れてしまったらしい。
嫌がらせをした部員は数日後に発覚し退部になったそうだが、彼女はそれがトラウマになり大会には出られなくなったという。
「酷い…そんなことがあったんですね」
「まぁ、女社会なんてそんなものなのかもね。でもね、どうしてもロードは嫌いになれなかった。だからこうしてあんま人がいない時間帯に乗ってたんだ」
「そうだったんですね」
「でも、久しぶりに誰かと全力で勝負して、すんごい楽しかった。ありがとうね」
オレの顔をじっと見つめてそう言う彼女をオレはどうしても放ってはおけは無くなった。
そしてある提案をした。
「茉璃さん。オレ、いつでも付き合うから。だからまた一緒に登りましょう。また勝負しましょう!」
そう言うと彼女は少し涙目になりながら今日一番の笑顔で「うん」と頷くのだった。