第10章 君だけの吸血鬼(新開隼人)
しばらくの間、どちらも何も言えなかった。
夜風と鼓動の音だけが、静かに重なる。
やがて隼人が、少しだけ息を整えて私を見下ろした。
さっきまでの強い光が和らぎ、穏やかな瞳に戻っている。
「……ごめん。ちょっと、嫉妬しすぎだったよな」
「ううん。……でも、嬉しかったよ」
小さく笑うと、隼人はふっと目を細めて息を吐く。
そして、私の頭をそっと撫でた。
「帰ろっか。もう他の奴らにこんな可愛い茉璃を見られるなんてごめんだからな」
そう言って、ドラキュラのマントを肩から外し、私の肩に掛けてくれる。
ふわりと包み込む布地が、まだ彼の体温を含んで温かい。
「……ありがと」
並んで歩き出すと、遠くからハロウィンパーティーの音楽がまだ響いていた。
笑い声と光が夜の街に滲んでいく中、私たちは少しだけ早足で駅へ向かう。
「杏子ちゃんには?」
「あとで連絡する!」
私がそう言うと、隼人は小さく笑って、手を繋いだ。
指先が触れ合った瞬間、さっきまでの熱が再び戻ってくる。
――ドラキュラに攫われたみたいに。
けれど今夜だけは、それでもいいと思えた。