第2章 生きてる感じ(真波山岳)
その日からオレらは週に数回一緒に走るようになっていた。
茉璃さんと一緒にいるのは楽しい。
全力勝負をしているときはもちろん、なぜか自転車から降りていてもなんだか生きてるって感じがするんだ。
「ねぇ茉璃さん。一つ聞いてもいいですか?」
山をゆっくり並走しながらオレは彼女に問いかける。
「最近、ある女性と一緒にいると心臓がドキドキして、自転車に乗ってないのに生きてるって感じがするんです。なんでですかね」
笑いながらそう問いかけると、彼女は一瞬驚いたような表情を見せた。
そしてすぐにいつもの笑顔に戻り思いがけないことを言う。
「それってその人に恋してるってことなんじゃないかな?嫌悪感とかそう言う感じじゃないでしょ?」
その彼女の言葉に更に胸が高鳴る。
そしてなんだか妙に納得した。
思えば最初に山頂を一緒に目指したあの日からずっと彼女のことを意識していたように思う。
学校で見かけるたびに目で追いかけ、可能であれば話しかけに行っていた。
今日は会えるかといつもそわそわしていて、委員長や東堂さんにも最近なんだか変だと言われていた。
「私もね…私も最近ある人と一緒にいると胸がドキドキして…あぁ好きだなって思うんだ」
突然発せられたその言葉に一気に胸が締め付けられる。
なんとも形容し難いなんとも言えない気持ちだ。
そして同時にその”好きな人”がものすごく気になった。
だからオレは勝負を持ちかけた。
「ねぇ茉璃さん。今からこの山の頂まで、全力勝負しませんか?」
「ここから?」
「はい。ここからです。それでオレが勝ったらその好きな人、教えてください」
オレのその提案に彼女は驚いてはいたがすぐに挑戦的な笑顔に戻り勝負を受けてくれた。
「いいよ、しよう勝負。でも私が勝ったら真波くんの好きな人、教えてね」
オレらは同時にギアを切り替え速度を上げる。
お互いに全力の勝負だ。
今まで何回か勝負をしたがオレが勝てたのはせいぜい2、3回。
8割型は彼女が勝っている。
それでも、この勝負には勝ちたい。
オレは全力でペダルを回した。