第2章 生きてる感じ(真波山岳)
「富永茉璃さん?」
オレが名前を呼ぶと彼女は驚いた表情を浮かべ自転車を止めた。
「あれ?真波山岳くん…だっけ?」
彼女の口からオレの名前が出て来るとは思わなかった。
今まで一度たりとも会話をしたことはなかったから。
「オレのこと、知ってるんですね?」
「あぁ、うん、知ってるよ。いつも東堂くんがキャラ被りしてる!って騒いでるからね」
笑顔でそう答える彼女にオレは苦笑いを向けると、急に彼女はオレの顔をじっと見つめた。
「全然かぶってないのに。私は真波くんのがかっこいいと思うけどな」
急に真剣な顔をして言う彼女の言葉に胸がドクンと跳ねた。
(あれ?なんか今、坂登ってないのに生きてるって感じが…)
考え込んで黙ってしまっていると彼女は不思議そうな表情を浮かべる。
「あ、すみません。ちょっとビックリしちゃって」
「そうだよね。急にあんなこと言われたらビックリするよね」
少し焦ってアワアワしている彼女を見て思わず笑みが溢れる。
笑ったり焦ったり急に真剣な顔をしたりと、表情がコロコロ変わる可愛らしい人だ。
もっと色々な表情が見て見たい。
そんなことを思わせる人だ。
今だって怒ったふりをしながらイタズラっ子のような笑みを浮かべながら
「授業サボって自転車乗ってたらダメじゃない!」
なんて言って来る。
先輩もじゃないかと思いながらも、頭を掻き笑いながら謝って見せると彼女は優しく微笑み手のひらでオレの頭をポンと叩いた。
叩いたと言ってもほとんど撫でているだけのようだ。
なんだかそれが妙に心地よい。
と、急に彼女はニヤッと笑いながら山頂を見据えた。
「ねぇ、真波くん。これから一緒に山頂まで行かない?もちろん、全開で、ね」
挑戦的な表情でこちらを見る彼女に対し、オレはポカンとした顔をしていたと思う。
「それじゃあ行くよー!よーい…どん!」
そう言うと彼女はプレッシャーを跳ね上げ勢いよく飛び出した。
オレも急いで後を追うがなかなか追いつくことができない。
会う前に感じていたプレッシャーは勘違いではなかったようだ。
東堂さんまでとはいかなくても、他の箱学のクライマーより断然速いだろう。
「いいね先輩!オレ今最高に生きてるって感じがするよ!」
「そう?楽しいね、真波くん!」
「うん!すごく楽しいよ茉璃さん!」