第2章 生きてる感じ(真波山岳)
自転車は好きだ。
生きてるって感じがするから。
でも一度自転車から降りてしまえばそれはあまり感じることができない。
教室で授業を受けている時も、家でダラダラしている時も、クラスメイトとおしゃべりをしている時も、ゲームをしている時も。
全然生きてるって感じがしないんだ。
だから今日もオレは自転車に乗る。
だってそこに山があるんだから。
こんなにも山に呼ばれているのに登らないなんて、そんなの嘘でしょ。
(ん?誰か来る…?)
山を誰かが登って来る気配を感じ坂の途中で脚を止める。
時間的には今は授業中。
自分でこんなことを言うのは変かもしれないけど、箱根学園自転車競技部に遅刻をしてまで自転車に乗り山を登っているのなんて、オレぐらいしかいないだろう。
でも感じるプレッシャーからして素人ではないだろう。
きっと自転車乗りだ。
オレはその登って来る人物のことが気になり後ろを見つめて待って見ることにした。
すると、下のカーブからその人物の姿が現れる。
2つ上の学年の先輩だ。
その先輩のことはあまり人に興味のないオレでも知っている。
部活の先輩たちが、去年の文化祭のミスター&ミス・コンテストで東堂さんとともにグランプリを獲った学園一のアイドルだと騒いでいた。
オレ自身も綺麗な人だとは思っていたので自然と名前は覚えていた。
まさか、そんな先輩がロードに乗っているなんて思わなかったけど。