第10章 君だけの吸血鬼(新開隼人)
「茉璃!そっちのテーブル、飲み物追加お願いー!」
杏子の声が響く。
「はーい!」と返事をして、私はトレイを持って会場の奥へ向かった。
仮装姿で盛り上がるみんなの笑い声が、スピーカーの音楽と混ざって弾けている。
真波くんは私たちのクラスメイトの女子に絡まれ、荒北は「狼の遠吠えだー!」と悪ノリ。
東堂は鏡の前で髪型を整えながら、周囲にポーズを決めていた。
「ねぇ茉璃、ほんと似合ってるってば!」
杏子がドリンクを受け取りながら、ニヤリと笑う。
「クラスの男子たち、さっきからチラチラ茉璃のこと見てるわよ?」
「ちょ、やめてよ……!」
顔が熱くなるのを感じながら、私は慌ててトレイをテーブルに置いた。
――そのとき。
ふいに、手首を掴まれた。
「っ……隼人?」
見上げると、ドラキュラ姿の隼人が立っていた。
鋭い視線の奥には、どこか怒っているような、焦っているような複雑な色が見える。
「少し、外行こう」
それだけ言うと、彼は私の手を引いて会場の扉へと向かう。
背後で杏子の「え、ちょっと!茉璃!?」という声が聞こえたけれど、立ち止まる間もなく、私はそのまま連れ出された。
扉の向こう、静かな夜の風が肌に触れる。
派手な音楽が遠ざかっていくのを聞きながら、胸の鼓動だけがやけに大きく響いていた。