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弱ペダ短編集

第10章 君だけの吸血鬼(新開隼人)


夜風が首筋を撫でるたび、衣装の薄さを思い知らされる。
その視線の熱さに気づいた瞬間、背筋がぞくりとした。

「……あんな格好で、あいつらの前に出るなんて」
隼人の声が、低く掠れている。
いつも穏やかな彼とは違う――感情を抑え込みながら噛み締めているような声音。

「違うの、杏子が勝手に……!」
「そんなの関係ない」

言葉を遮るように、隼人が一歩詰め寄る。
距離が一気に詰まり、背中が壁に押しつけられた。

「俺以外のやつに、そんな姿見せんなよ」

マントの裾が私の腕を包み込む。
逃げ道を塞ぐように、隼人の影が覆いかぶさってくる。

「……みんな、楽しんでたし――」
「だからムカつくんだよ」

吐き捨てるような声。
それでもその瞳の奥は、怒りよりもずっと深く、苦しそうに揺れていた。

「……茉璃が笑ってるの見ると、誰よりも嬉しいのに。あいつらの視線が全部そこに向くのが、たまんねぇくらい嫌になる」

ドラキュラの衣装のままの隼人が、ゆっくりと私の髪に触れる。
その手は少し震えていて、まるで本当に何かを壊しそうなほど切実だった。

「……ごめん、抑えられねぇ」

首筋に顔を寄せた彼の吐息が、熱く触れる。
まるで“噛みつく”代わりに、言葉で私を独り占めしようとするように。

「茉璃が誰を見ても、誰に見られても、――茉璃は俺のもんだ。」

その声に、胸の奥が焼けるように熱くなる。
夜の静寂がふたりを包み、風の音さえ遠くなった。
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