第10章 君だけの吸血鬼(新開隼人)
ハロウィンパーティー当日。
貸しスペースの一角、更衣室の鏡の前で、私は息をのんだ。
「……うそ、これ着るの?」
ハンガーにかけられた衣装を見た瞬間、目を疑った。
長いウサギの耳に、ガッツリと鎖骨の見える黒のオフショルダー。
胸元には蝶ネクタイ、そしてスカートは信じられないほど短い。――そう、まるで雑誌で見るような“バニーガール”だった。
「だって、新開くん、うさぎ好きでしょ?」
杏子は悪びれもせず、にこにこと笑いながら言う。
「ほら、早く着替えて!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」と抵抗する間もなく、彼女は手際よくリボンを結び、耳をつけ、背中のチャックを上げていく。
まるで自分が着るかのようなノリの良さだ。
隣を見ると、杏子は小悪魔の衣装を身にまとい、鏡越しにニヤリと笑っていた。
黒い羽にショートスカート、赤いルージュがよく映えている。
「ね、いい感じじゃん。ほら、茉璃可愛いよ」
そう言われても、露出の高さに心臓がバクバクするばかり。
頬を赤くしながら、私はおそるおそる更衣室の扉を開けた。
――そして、そのまま会場の扉をくぐる。
音楽と笑い声が混ざる中、いくつもの視線が一斉にこちらへ向いた。