第8章 聖なる夜に(荒北靖友)
12月24日、クリスマスイヴ当日。
オレは駅前の時計台前で茉璃を待つ。
あたりには同じように待ち合わせをしているであろうカップルがウジャウジャとしている。
普段ならこんなところいられたもんじゃねェがなんだか今日は悪い気がしねェ。
それにしても今日は寒ぃ。
雪でも降るんじゃねェかと思うほどだ。
少しでも寒さを和らげようとポケットに手を入れ縮こまっていると急に背後から首元に暖かい何かが触れた。
「どわっ!んだよ!ビックリすんじゃねェか!!!」
勢いよく振り返るとそこにはニヤついた顔の茉璃が缶コーヒーを両手に持って立っている。
先ほど首元に触れたのはこの缶コーヒーだろう。
「お待たせ。靖友、これ飲む?」
そういうと茉璃は缶コーヒーをオレに差し出す。
それもオレが好きなやつだ。
本当にコイツはオレの好みを理解してくれている。
「あんがとよ」
オレは缶コーヒーを受け取ると空いているもう片方の手で茉璃の手を握り自分のジャケットのポケットに突っ込んだ。
「靖友、どうしたの?珍しいね、外で靖友から手を繋いでくれるなんて」
茉璃は驚いた様子でそんなことを言ってくる。
確かにオレから手を繋いだことはあまりない気がする。
「るせェ。片手あったかくてももう片手が寒ぃだろうが。」
そういうと茉璃は少し照れたように笑う。
その顔を見てたまにはこういうのもアリだと思うのだった。