第6章 幼馴染の距離(巻島裕介)
次の日、教室に入ると既に友人と話をしている茉璃の姿が目に入った。
いつも朝練がない日は一緒に登校していたのに今日は先に家を出てしまったようだ。
オレは挨拶をしようと茉璃に近づいてみたが全く見てくれようとしない。
それどころか友人と話し込み話しかけられないようにしているかのようだ。
茉璃がオレのことを避けているのは明らかだ。
そりゃそうだ。
今までただの幼馴染で男と意識すらしていなかったであろう奴に無理やりあんなことをされたのだから。
オレはもう一回ちゃんと謝ろうと心に決め話すことのできるタイミングを探ルことにした。
幸いなことにオレと茉璃は席も隣同士なのですぐに話すことはできるだろう。
そう思っていた。
「全然話せるタイミングがないショ…」
もうあれから5日。
そんなに経っているにも関わらずオレはまだ話しかけられずにいた。
あれから毎日のように避けられているのだ。
「さすがにこれは…精神的にもくるショ…峰ヶ山のタイムも落ちてるし…なんとかしねーと…」
机に突っ伏しうなだれていると茉璃の友人が#やってきて寝ていた茉璃を起こした。
「起きて、茉璃」
「んー?あぁ、奈々ちゃん、どうしたの?」
「茉璃、今週の日曜日空いてない?」
「うん。空いてるけど、なんで?」
「遊園地のチケットが余ってて茉璃も行こうよ!」
「遊園地か…うん、いいよ、行こう」
友人は茉璃の返事を聞くとすぐに携帯を取り出し誰かにメールを打ち始めた。
「急に誰にメール?」
「あぁ、田中くんにね!茉璃が行けるって連絡してたの!」
「た、田中くん!?奈々ちゃんだけじゃなかったの?」
「実はこのチケットも田中くんからもらってね!で、田中くんが友達の高橋くん連れていくから茉璃ちゃん連れてきてくれないかーって!ダブルデートだよ!高橋くん、前から茉璃のこと気になってたんだってー!」
「私高橋くんのことほとんど知らないんだけど…」
「まぁこれから知っていけばいいじゃない!はい!これチケットだから!よろしくね!」
友人は茉璃との約束を強引に取り付け嵐のように去って行った。
茉璃はため息を吐きながら友人が置いて行ったチケットをしばらく眺めてから財布にしまう。