第1章 不思議なやつ(荒北靖友)
「おぉ、荒北に富永じゃないか。こんなところで二人で昼食か?仲が良いのだな、お前らは。こうみると、二人はお似合いではないか!」
「バァカ!!てめェ何言ってやがんだ!」
少しニヤついた含みのある笑顔で的外れなことを言いやがった東堂にオレはすかさず立ち上がり文句を言う。
そして、様子が気になって横を見やると、彼女は案の定俯いて黙り込んでしまっていた。
顔は見えないが彼女の肩は少し震えているように見える。
そりゃそうだ。
こいつはファンクラブに入るほど東堂のことが好きなのだから。
そんなオレたちの気持ちもつゆ知らず、東堂はそのまま高笑いをしながらその場を去っていく。
東堂のいなくなった今、この場の空気は最悪だ。
この状況を打開するため話しかけようとすると、彼女は顔を真っ赤にしながらこちらを見た。
「そんな顔を真っ赤にして怒るほど、東堂が言ってたこと、嫌だったのかよ」
心の声が漏れるかのようにボソッと呟きその場を去ろうとしたその時、急に後ろから制服の裾を掴まれた。
「嫌じゃ、ない…怒ってもない…」
その言葉に驚き、彼女の方を見ると彼女の頰は先ほどより赤く染まり少し涙目になっていた。
「ハ!?なんでおめー泣いてッ!?」
今にも泣き出しそうな彼女にどうしたらいいのかわからずあたふたしていると彼女が絞り出すような小さな声で呟いた。
「…嬉しかったの」
(何が嬉しかったんだ?東堂に話しかけられたことが?いや、今までだって何回か普通に会話もしていたはず。)
色々考えながら黙ってしまっていたオレに彼女は少し怒ったような表情で話を続ける。
「今、絶対お門違いなこと考えてるでしょ!?私は、靖友とお似合いって言ってもらえたことが、その…嬉しかったの…!」
「ハァ!?意味わかんねーよ!おめーは東堂のことが好きなんだろ!?だからファンクラブだって!!」
「東堂くんのことはアイドル的な感覚であって…とにかく!ファンクラブに入ってるからって恋愛感情があるとは限らないでしょ!…なんで私はこんな男の事…こんなにずっと一緒にいるんだから少しは気づいてよ!バカ!!!」
「ハ!?バ!?」
彼女の突然の言葉に口をパクパクさせるしかできないでいると、痺れを切らしたように、そして何か覚悟をしたような決意の表情でこちらを見た。