第1章 不思議なやつ(荒北靖友)
オレは恋をしている。
自分がこんなことを言うガラじゃねェことぐらい、重々理解しているが、好きになっちまったもんは仕方がねェ。
そいつはオレの同級生であり、東堂のファンクラブの一員だ。
大体、ファンクラブの連中にはオレを見てビビって逃げるか、東堂くんのことをいじめたら許さない!と謎に息巻いて喧嘩をふっかけてくるかのどちらかしかいねェ。
その中、そいつは物怖じすることもなく、もちろん意味のわからねェ喧嘩をふっかけてくることもなく普通に話しかけてくる。
それだけじゃねェ。
部活や大会の際、ファンクラブの連中や他のやつも自分の目当ての部員にしか差し入れは持ってこない。
今までオレに差し入れなんて持ってくるやつは誰一人としていなかった。
だがそいつはなぜか東堂の分に加え毎回オレの分まできっちり用意してくれている。
そして顔を見合わせれば人懐っこい笑顔でオレに話しかけてくる。
他の奴らは大体、俺がいると怯えた表情を浮かべ遠ざかっていくというのに。
不思議なやつだ。
だが、その不思議なところに惹かれいつの間にか好きになっちまってた。
なんでこいつはオレと一緒にいてくれんだ。
いつ考えてもわからねェ。
今だってそうだ。
昼休み、友達の多そうなこいつなら他に飯を食う相手ぐらい何人だっているだろうに、なぜかオレの隣に座っている。
「なんでてめェはここにいんだよ。東堂ならあっちで女どもに囲まれてんぞ」
東堂のいる方を指差しながら話しかけてもこいつは笑顔のままだ。
「いいの。私はお昼まで邪魔したくない。それに、靖友一人になっちゃったら寂しいでしょ?」
「ハァ!?寂しくなんてねーよ!!」
オレがこうして声を荒げてもピクリとせずにケラケラと笑ってやがる。
(オレは、この笑顔に惹かれちまったんだな)
そんなことを考えながら彼女の横顔を見つめていると、いつの間にかファンの女子の相手を終えた東堂がこちらへ来ていた。