第5章 あいつに似た彼女(東堂尽八)
化粧室から出るとなんだかあたりが騒がしくなっていた。
その騒ぎの中心を見ると茉璃とオレのファンの女子数名がいた。
その女子たちは箱根学園でも少々有名な集団だ。
有名と行ってもいい意味ではなく悪い意味なのだが。
その集団が茉璃を囲んでいる。
「あんたさ、転校生で無表情のくせに生意気なんだよ」
「いつもいつも東堂くんと一緒にいて邪魔なのよ!」
「あんたが来てから東堂くんが変わった!東堂くんを誑かして!」
「…いや、別に東堂とは…」
「ハァ!?東堂くんのこと呼び捨て!?」
「…」
「黙ってないで何か言いなさいよ!」
「あんた東堂くんの何なのよ!」
「彼女はオレの好きな人だよ」
突然現れたオレに女子たちは驚き言葉を失っていた。
まさかこの場にオレが現れるなんて夢にも思っていなかったのだろう。
そして茉璃もポカンとしていて鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべている。
これまた見たことのない表情だ。
「オレのファンでいてくれたことには感謝しているよ。だが、オレの大事な人を傷つけるような心の穢れた者はオレのファンである資格はないな」
そう言うとファンの女子たちは涙を流しながら走り去って行ってしまった。
「何もあんな嘘までつかなくても…」
「嘘ではないよ」
「え?」
今度は驚きながら少し顔を赤らめ困ったような顔をしている。
また新しい表情。
そんな表情をしている彼女を心底愛おしいと思う。
最初に茉璃に興味を持ったのは巻ちゃんに似ているからだと思っていた。
でもきっとそれは間違いで初めてあったその日に一目惚れをしていたんだと思う。
そしてこの3ヶ月、友人として関わってきてどんどんその気持ちが大きくなっていったように思う。
「こんな形で告白するつもりはなかったのだがな…」
そこまで言いかけオレはあることを思い出す。
「そうだ!ちょっとこちらへきてくれないか?」
そう言いながらオレは彼女の手を引き屋上へと連れて行った。