第5章 あいつに似た彼女(東堂尽八)
同じクラスになって3ヶ月。
なんだかオレと彼女には縁があるようで、寮までの帰り道、オフの日に友人との勉強で利用しているファミレス、近所のスーパーやコンビニ、食堂など事あるごとに顔を合わせるようになっていた。
今日行われた席替えでもまた前後だ。
「また東堂か。代わり映えしないな」
そう言う彼女の表情は以前のように嫌そうではない。
この1ヶ月で彼女の表情もだいぶ柔らかくなったように思う。
「代わり映えならしているではないか!今回はオレが後ろで茉璃が前なのだからな!それに茉璃もまたオレと席が近くて嬉しいのだろう?」
「ハァ…自惚れんな」
彼女は少し呆れながらも微笑みオレを見つめる。
こんな表情を見られているのはオレだけなのではないだろうか。
基本的に彼女が感情を表に出すことは滅多にない。
彼女は基本的に人見知りのコミュ障らしい。
他の生徒と話しているときたらひどい表情をしているものだ。
オレも彼女の表情を引き出すためにだいぶ苦労したものだ。
「そういえば茉璃。今日は部活がオフなのだが」
「へぇ」
彼女はなんとも興味のなさげな顔をする。
こう言うところは最初の頃とあまり変わらない。
「なんだ!その興味なさげな表情は!」
「だって東堂の部活があろうがなかろうが私には関係ないでしょ?」
「関係なくはないな!今日もいつものいこうではないか!」
オレが言う”いつもの”とはロードのことだ。
まだ全然会話ができなかった頃、部活で山を登っていると後ろからものすごい勢いで茉璃がオレを抜き去っていったのだ。
その時彼女は言った。
”私は自転車でしか会話ができない”と。
だからそれからオレは部活がオフの日には欠かさず茉璃をロードに誘うようになった。
彼女もロードは好きらしく遊びや勉強会に誘っても断るくせにロードの誘いだけは断ったことがない。
「あー、今日は無理。自転車の部品買いに行くから。東堂も行く?」
オレはその言葉にびっくりした。
今までオレから誘うことはあっても茉璃から誘ってくれることなど一度もなかったのだから。
「いいのか?オレも一緒に行って」
「行きたくないなら別にいい」
「いや、行く!行くぞ!」
オレがそう答えると彼女はフッと笑い机から取り出した本に視線をうつした。