第4章 赤頭の彼(鳴子章吉)
ついに今日は花火大会当日。
今週は毎日巻島くんに手伝ってもらいなんとか鳴子くんと会うのを避けてしまっていた。
そして今日、やっと気持ちの整理をつけて花火大会の会場に来ていた。
待ち合わせ場所と時間は巻島くんからの伝言という形で聞いた。
心臓が持つ自信もなくドキドキとしながら鳴子くんを待っていると聞き覚えのある声が私の耳に飛び込んで来た。
「おー!まさかまた会えるとはのう。ワシはやっぱりモッとるのう。なんじゃ今日は弟くんはおらんのじゃろう?だったら今日こそワシと遊ぼうやぁ。こっちにおるのも明日で最後じゃけぇ会えてげによかった」
そういうと以前デパートであったナンパ男は強引に私の手を引き祭りの会場へと進んで行く。
「ちょっやめてください!私待ち合わせをしてるんです!あなたとは遊べません!」
「この前約束したじゃろう。エエ」
「それはあなたが勝手に言ってただけでしょう!?私は約束なんてしてません!」
「そうじゃったかのう?ワシャ気の強い女は嫌いじゃない。むしろ好きじゃ」
それ以降男は私の話を聞こうともしてくれずどんどん手を引き進んで行く。
力一杯振りほどこうにも力が強くて解けない。
(怖い…鳴子くん…!)
怖くなって目を瞑るとナンパ男が引いていたのと逆側の手が急に引かれた。
驚いて引かれた方向に目を向けるとそこに立っていたのは息を切らして汗だくになっている鳴子くんの姿だった。
「またお前か!この人に手を出すなてこの前も言うたやろ!」
「なんじゃ、何かと思えばまた弟くんが邪魔しに来たんか。そがいにワシらの邪魔せんでくれんか。エエ」
そう言うナンパ男は以前とは比べ物にならない威圧感を放っている。
だが鳴子くんはそれに全く怯むことはない。
「やから、弟やない言うとるやろ!ワイは…この人の…」
何かを言いかけ口ごもってしまっている鳴子くんを見て私は咄嗟に声をあげた。
「彼氏です!!!」
私の一言にナンパ男も鳴子くんも驚きの表情を見せる。
鳴子くんに至っては口をパクパクさせ金魚のようだ。
「この人は私の彼氏です。これから彼とデートなので失礼します」
そう言いながら私は力の緩んだナンパ男の手を振り払い鳴子くんの手を引きその場を去ることにした。