第4章 赤頭の彼(鳴子章吉)
週末、私は浴衣を買うためにデパートへ来ていた。
浴衣フェアのせいか少しデパートは混雑しているようだ。
早く買って早く帰ろうと少し足早に店内を回っていると、この間鳴子くんが見せてくれた浴衣と似合いそうな女性用の浴衣を見つけた。
浴衣を購入し家に帰ろうと出口に向かっていると見知らぬ男性に声をかけられた。
「よぅ。おねぇちゃん一人で暇そうじゃのう。ワシと一緒に遊ぼうやぁ」
広島弁で話しかけてくるその男性はズンズンと私に詰め寄ってくる。
「ちょ、ちょっと、なんなんですか。やめてください。」
「たまたま用事で東京に来て暇しとったんじゃ。でもこんなところでこがいな可愛い娘に会えるとはのう。彼氏おるん?エエおらんの?ほんじゃワシと付き合わんか?エエ」
私はいつのまにか人気のない場所まで連れて来られ壁に追いやられていた。
恐怖で動けずにいると向こうの方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「お前、何やっとんのや!さっさとその人から離れんかい!」
そう言ってこちらに走ってくるのは見覚えのある赤頭だ。
「なんじゃ、弟連れとったんか、エエ」
男は鳴子くんを下から上まで見て私の弟と判断したらしい。
私が反論しようと口を開きかけると先に口を開いたのは鳴子くんの方だった。
「弟ちゃうわ!とりあえずこの人からさっさと離れろ言うてんねん!」
鳴子くんはナンパ男に威嚇をするように私の前に立ちはだかる。
すると、男は諦めたのかつまらなそうな顔をしてこちらを見た。
「へーへー。あぁあ。なんだか興ざめじゃ。また会うたら遊ぼうや」
そう言うとナンパ男は手をひらひらとさせて去って行った。
「大丈夫ですか?茉璃先輩!何もされてませんか?」
「うん。大丈夫だよ。ありがとうね、鳴子くん」
どうやら鳴子くんは友人と一緒にデパートへ遊びに来ていたようだ。
遠くから私を見つけいつも通り声をかけに来て見たらナンパ男に絡まれていた、ということだったらしい。
「じゃあ、ワイ友達待たせてるんでこれで失礼しますわ。ほな!」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね、鳴子くん」
そうして私は買った浴衣を手にやっと家路につくことができた。