第4章 赤頭の彼(鳴子章吉)
元気に挨拶する彼、鳴子章吉くんとの出会いは唐突だった。
そしてこの出会いから約1ヶ月。
毎日昼休みになると私の在籍しているクラスの教室へと来ている。
「茉璃先輩!見てください、この浴衣!ごっつ派手でかっこええでしょ!?」
今日はやって来たかと思えば、なぜか学校に持って来ていた赤の派手な浴衣を目の前で広げている。
「え、あぁうん。かっこいいね。鳴子くんによく似合うと思うよ。」
「ほんまですか!?先輩にそう言ってもらえると嬉しいですわ!」
そう笑顔で言う鳴子くんのことを最近は心底可愛いと思えるようになった。
来ない日があれば何かあったのだろうかと少し心配になるほどだ。
「あ!せや、今日はちゃんと用があって来たんです!」
これを聞いていた全員が”いつもは用なかったんかい!”と心の中でツッコミをしたことだろう。
だがそれを言わせる暇もなく次の言葉を続ける。
「茉璃先輩、今度の花火大会一緒に行きませんか?」
「は、花火大会?(キーンコーンカーンコーン…
驚いて聞き返すと同時に予鈴が鳴り響く。
「ほな先輩、約束ですからね!」
私の返事を待たずに鳴子くんは手を振りながら去ってしまった。
苦笑いをしながら鳴子くんに手を振り返していると後ろの席から独特な笑い声が聞こえた。
「クハッ。強引な奴ショ」
「巻島くん」
彼は同じクラスの巻島裕介くん。
鳴子くんと同じ、自転車競技部で鳴子くんの先輩だ。
「もうかれこれ1ヶ月は通って来てるショ。行くのか?花火大会」
「う、うん。行こうかなって」
「クハッ。そりゃあいい。きっと鳴子も喜ぶショ。浴衣でも着て行ってやれ」
私は巻島くんのその言葉通り、浴衣を着て行くことに決めた。
だが、浴衣など持っていなかった私は、巻島くんに教えてもらった少し遠くのデパートでやっている浴衣フェアへと足を運ぶことにしたのだった。