第3章 小さな不安(手嶋純太)
「もしかして、さっきの見ちゃってたか?」
「…うん。たまたま見かけちゃって…バッチリ」
「そ、そうか。いやぁ、最近どうしちゃったんだろうな。困ったもんだよ」
「………。」
「………。」
そのまま沈黙がしばらく続く。
沈黙に耐えられなくなり私が背を向けて去ろうとするとすぐに腕を掴まれ彼の胸の中へと引き寄せられた。
「じゅ、純太?」
「ごめんな、茉璃。不安に、させちまってるよな。青八木にもさっき言われたよ。茉璃にこんな顔させるなってな」
純太は私を抱きしめている腕に力を込める。
「今日からはできるだけ一緒に帰ろう。毎日とはいかないけどできるだけさ。それで昼も一緒に食おう。」
私はその言葉に驚いた。
今まで放課後は遅くまでロードの練習をするからと一緒に帰ることはなかった。
そして主将になった今、以前よりさらに忙しくなっているように思う。
この前見かけたが、昼休みですら主将の仕事があると言うことでノートとにらめっこしながらの昼食だ。
「いや、自転車忙しいんだからそんなに無理してくれなくていいよ!私はこうしてたまに2人きりでいられたらそれで嬉しいから」
私がそういうと純太はまた腕に力を込める。
「無理なんてしてねーよ。それに主将の仕事、思ったよりも大変なんだよ。結構しんどくてさ。だから、たまにはゆっくり茉璃に癒されたい。ホラ、たまにはティーブレイクも必要だろ?」
その言葉に赤面し黙ってしまっていると、純太はそっと身体を離し私の顔をそっと覗き込む。
「茉璃、ダメか?」
こう聞かれたら私が断ることができないのをわかっていてやっているのだろう。
まぁ、こんなこと言われて断れるわけがない。
「…ダメじゃない、です」
すると純太はホッとした表情を浮かべ微笑んだ。