第3章 小さな不安(手嶋純太)
「あの…私、手嶋くんのことが好きです。私と付き合ってください!」
私は今、何を見せられているのだろう。
いや、正確に言えば見せられているのではなく見かけてしまった、と言ったほうが正しいだろう。
「あー…悪りぃ。気持ちは嬉しいんだけどさ…気持ちには応えられない」
そう言って告白を断る彼、手嶋純太は私の彼氏である。
なのでこう言った場面は少々不愉快だ。
だがこれに関しては周知していない自分達が悪い。
別に隠れて付き合っているわけでもなければ特別よそよそしくしているわけでもない。
だが何故か周りには”仲の良い友達”としか認識されないのだ。
それ自体は何も困ったこともないし否定もしてこなかった。
だがここ最近、純太が自転車競技部の主将になった頃から突然モテ始めている。
確かに恋人である私から見ても純太は少し大人っぽくなりかっこよくなったとは思う。
なのでこういった場面に遭遇することも少なくなくなった。
なんとも複雑な気分だ。
「茉璃…」
突然後ろから声を掛けられ驚き振り向くとそこには青八木くんが立っていた。
「こんなところでどうした?」
「え、あぁ…なんでもない!気にしないで!あはははは…」
青八木くんは私の渇いた笑いを見て何かを察したかのように心配そうな表情を浮かべる。
途端に少しハッとしたような表情を浮かべたと思い不思議に思っていると、いつの間にか私の背後に立っていた純太が突然私の肩を掴んできた。
「ヒャア!?」
「なんて声だしてんだよ茉璃」
突然の出来事に驚き声をあげる私を見て純太はケラケラと笑う。
「こんなところで2人きりで、浮気か?茉璃、青八木」
ふざけながらそんなことを言う純太にそれはこっちのセリフだと言ってやろうと口を開こうとすると、先に口を開いたのは青八木くんだった。
「純太!」
そのたった一言。
だが、その一言で純太は全てを理解したようだった。
「青八木…そうだな。悪かったよ。」
青八木くんはその純太の言葉を聞くと少し微笑み私の肩をポンと叩いて去ってしまった。
本当にこの2人はよく会話が成立しているものだ。
純太はエスパーか何かなのだろうかと毎回思う。
であれば少しは私の気持ちも読み取ってほしいものだが。