第9章 捌ノ刻~百年来の友~
蝉が煩く鳴き喚き肌を焦がす炎天下。風はそよぎ髪を揺らす。今日は特に暑い日だ。一歩進む度に汗が流れる。
(…鍛練でもしようかな)
ここまで暑く汗が流れるのであれば、逆に汗をダラダラ流してみたい。特に意味もない好奇心で鍛練できる場所を探した。
自然とその足は檜佐木副隊長が使う鍛練場に向いていた。緑が多く広いため鍛練をする環境として最適と言える。暗く狭い洞穴のような場所で鍛練もできるが、雷切の性格上そのような場所では対話をしてくれない。意外と我儘な斬魄刀ちゃんだ。
ここまで暑い日なのだから流石に鍛練していないだろうとタカをくくっていた。が、檜佐木副隊長はいた。
檜「フンッ! …やぁッ!」
(…真面目な人だなぁ)
だだっ広いその場所は丁度その開けた部分に日が差し込み、辺り360度は木々で囲まれ、どこか涼しさが感じられる。陽炎がぬらりと揺れながらも檜佐木副隊長の姿は遠くからも確認できた。
わざわざ関わりに行くほど仲が良いわけでもなく、でもせっかくだから挨拶くらいしようかな…と、歩きながら思考を巡らせていると向こうが私に気づいてくれたらしい。
檜「…お前も鍛練か?」
「ええ、檜佐木副隊長もよくこんな暑い日にやりますねぇ」
檜「時間が空いたからな。瀞霊廷通信も配り終えたところだ」
「大変そうですね。仕事量半端ないんじゃないですか?」
檜「まあそうだが、充実している」
「真面目ですね」
涼しい風が肌を撫で、木々の独特な香りが鼻につく。
檜「…折角だ。一緒に鍛練しないか」
やはり人と行う鍛練は刺激がある。どのような癖があるのか、どのような攻撃手段があるのか。もちろん命のやり取りがない分、実戦と同等の経験が得られるとまではいかないが、実戦並の経験値は蓄えられる。…私に経験値が必要かと言われると分からないが。
檜「ハァ…ハァ…クソッ!」
結論からして、檜佐木副隊長は私に片膝をつかせることすらできなかった。前回の反省を踏まえて、暴発させることはなかったものの…まあ申し訳ないことをしたなとは思っている。
「あの…大丈夫ですか?」
地面に伸びている檜佐木副隊長に問いかけた。
檜「ああ…大丈夫だ」
「よかったです」
気がつけば日は傾き、空は茜色に染まっていた。