第2章 壱ノ刻~昇進~
自分の隊舍、八番隊にやって来た。
いや、帰って来た、というべきかな。
何も今日一日で挨拶を済ませなければダメだという訳ではない。また明日に備えて、今日はゆっくりと休もう。
寝巻きに着替えて自室の整理を始めた時、ノックの音がした。
「はーい」
ガチャっとドアを開けるとそこには、隊長“京楽春水”が立っていた。
軽薄だが思慮深い、奇抜な風貌と言動であまり威厳を感じさせないが、護廷十三隊の中でも指折りの実力の持ち主。
京「懍ちゃん。ちょっといいかい?」
「なんですか?」
夜も更けてきている。なるべく早く済ませたいんだが。
京「いやぁ。零番隊に昇任だってね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
京「だけど、麗しい懍ちゃんとイチャイチャ出来なくなるとは、悲しくなるなぁ…」
「今まで一度たりともイチャイチャしたことないでしょう。捏造はやめてください」
京「あぁ…そういう罵倒も、聞けるのが少なくなっちゃうのか…ヤになっちゃうよホント」
「隊長…。副隊長のツッコミでMになってしまわれたのですか。哀れですね。ちょっと半径3mほど離れてもらっても宜しいですか?」
京「言葉責めが酷い!…リサちゃんくらいでちょうど良いよ。懍ちゃんは僕のことを好きになってくれればいいの。あと、寝巻き姿が素敵だよ。月明かりに照らされた美女とはかくも美しいものなのか…」
「気色悪いです隊長。胸毛引きちぎりますよ」
京「懍ちゃんになら、何されてもいいよ!」
「はぁ…もういいです。こんなこと言うために、わざわざ夜遅くに来た訳でもないんでしょう?」
京「うーん。まぁ、死なないでね…って言いに来たんだけど、懍ちゃんって僕よりしぶとそうだから、死なないだろうけど」
「死にませんよ、私は。というか零番隊ってそんなに命が吹き飛ぶような感じなんですか?」
京「いや。ただ、キミが心配でね」
「大丈夫ですよ。隊長が死ぬまで、私が隊長のMを改善していこうと思っていますから」
京「それは懍ちゃんが居る限り、治らない病気だよ」
「じゃあ一生治らないですね。その厄介な病気」
隊長格と軽口叩けるのも、ここ八番隊だけかも。
結局、長い時間話し込んでしまった。
京楽隊長の回りには、何か妙だが心地よい空気があるんだよなぁ。