第8章 漆ノ刻~運命の夜~
…眩しい。優しい雨が降っている。
(…そうか。俺はやられたのか)
あの巫女服の少女がなんなのかはわからないが、取り敢えず負けは負けだ。俺にはまだあの人を超える力はない。…それにしても凄い女だ。敵に回したくねぇな。
(…どんな斬魄刀かもわからずに終わっちまったな)
せめてどんな斬魄刀かを知って戦いたかったが、その前にやられちまった。…純粋に悔しいって思う。それに…なんかいい香りがするな…。
(…なんでだ?)
「大丈夫ですか? 身体痛くないですか?」
恋「どわっ!! 顔が近ぇ!」
目を覚ますと、彼女が心配そうな顔で俺を見つめていた。覗き込んでいたのかその顔が近かった。…心臓に悪い。独特な雨の匂いの中でも、フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。あんだけ強くても、女であることを変に感じてしまう。
それにしても、十一番隊の連中が口を揃えて言っていたことは間違ってなかったんだな。強いだけじゃなく美人。変に飾らない感じがまた男心をくすぐる。金色で眩しい髪の毛にルビーのように輝く瞳、出てるところは出て締まっているところは締まったスタイル、しかし細く華奢で見た目では弱々しい少女のようにも見える。…かわいくて強いギャップのある女だ。そりゃ十一番隊の連中が騒ぐわけだ。
「キミ…まだまだ弱いね。ただ力で振り回すのが斬魄刀じゃない。まずはキミ自身の斬魄刀のことをしっかりと理解することが大切ですよ。今はまだ未熟だけど、強くなれる要素はある。しっかりと鍛練を積んでいけばもっと実力をつけられると思いますよ」
優しい笑顔で答えてくれる。クソ…かわいいじゃねぇかよ。ただ、この人が言うんだ間違いねぇ。俺はもっと強くなれる。強くなって…あの人を。
恋「あの…またアナタを誘ってもいいですか?」
「もちろん。私で良ければだけどね」
恋「ええ。むしろアナタじゃなきゃダメだ。よろしくお願いします」
頭を下げる。少し驚いた表情を見せたが、また優しい顔になって「こちらこそ」と言ってくれた。何故かそれだけで嬉しかった。この人と一緒にいられる口実ができたからだろうか。とにかく、俺は強くなる。強くなってあの人を…。そしてこの人にも、強くなった俺を見てほしい…。新しくそんな思いができてしまった。