第8章 漆ノ刻~運命の夜~
ル「懍殿! 離してください!! 海燕殿を…海燕殿をお救いしなければ!!」
「それは浮竹が何とかしてくれるから…! 落ち着いて!!」
ルキアちゃんを肩に担ぎながら森を抜ける。ルキアちゃんをあの場所に戻せば、きっと深い傷を負うことになる…。ルキアちゃんだけじゃない。浮竹にも十三番にも…多少のことでは癒えない深い傷が…。
(…浮竹、無事か…)
意識をあの場所に向けた私は、ルキアちゃんを担いだその腕の力が緩まったのを気付けなかった。するりと腕の間を縫って、ルキアちゃんは私の腕から脱出して浮竹が残った場所に向かって走り出した。
「なッ…! ルキアちゃん待って!!」
思いのほか早く移動する彼女に追い付いた時には、志波副隊長が彼女を襲おうとしていた。
浮「馬鹿野郎朽木っ!! どうして戻ってきた!! 殺せ!! そいつはもう…海燕じゃないんだ!! 殺せッ!!」
彼女が突き立てた斬魄刀は志波副隊長の胸を貫いた。
雨が振る。しかしその雨は、ルキアちゃんの手に流れた志波副隊長の血を洗い流すことはなかった。
海「…隊長…ありがとうございました…俺を戦わせてくれて…」
浮「…ああ」
ル「か…海燕殿…?」
海「ルキア…俺の我儘につき合わせてヒデー目に遭わせちまったな。悪い、キツかったろ」
ル「………」
海「…懍…コイツのこと…見てやってくれ…」
「…ええ」
海「ありがとな、お陰で、心は此処に置いて行ける…」
消えていく…。彼が…消えていく。私たちには癒えない深い傷痕を残して―
志波副隊長の死後、護廷十三隊で唯一、十三番隊は副隊長が不在のままだ。これは弔いの儀式…失った傷は大きい。
「…浮竹隊長、ルキアちゃんは…」
浮「…まだ隊舎に来ていないよ。もう1ヶ月か…」
「そうですか…」
浮「…神崎」
「まあ、辛気臭いのは苦手なんでね。…いい加減、私から会いに行こうかな」
浮「…隊長として隊士に何もできなくて情けないが…頼む、神崎。朽木を…」
「…あまり柄じゃないんですけどね…」
見てやってくれ…か。
(変な約束しちゃったなぁ…)
私は朽木邸に向かった。