第8章 漆ノ刻~運命の夜~
「私はそういうの嫌いでね…ルキアちゃんと同じ意見だよ」
同情する訳ではないが、浮竹隊長が戦いに対する価値観を語るのであれば、私も言うべきだろう。
「…そういうの、つまらない意地だと思ってるんだ。命が…身体が資本だからね。自分を犠牲にしてまで戦う必要もない。そんな意地で、周りに癒えない傷を残して逝ってしまうヤツだっている。だから私はその考え方が苦手なんだ」
浮「…神崎」
「でも、その人の意志は誰にも覆せない。どれだけ周りが止めようと、どれだけ周りが諌めようとしても…強い意志があるならば、私はそれを尊重する」
ル「……」
「信じて待つのも…残された者の任務だよ」
浮「…そうだな」
ルキアちゃんは、浮竹隊長の言葉に納得したのか斬魄刀を納めた。しかし変わらず心配そうな面持ちで志波副隊長を見つめている。
そんな志波副隊長は、斬魄刀が消滅した一時は押されていたが、今では逆に鬼道だけで押し返している。さすが隊長への昇進を誘われた副隊長というべきか、柔軟に対応できるその能力は素直に見習いたいものだ。
志波副隊長は流血しながらも、余裕な表情を浮かべている。さしずめ、鬼道だけで充分と言っているかのように。
しかし、虚の様子がおかしい。そう感じた時、触手のようなものが志波副隊長へと伸びてきた。虚は、ガシャンと音を立てて崩れ落ちた。触手のようなものは、志波副隊長の体内へと取り込まれるように見える。
(…志波副隊長の霊圧が)
考えたくはない。しかし、現実はすぐに答えが出た。
ル「…海…燕…殿…!?」
海「…何じゃ、儂を呼んだか…小娘?」
(…!?)
志波副隊長だったものが、ルキアちゃんに襲いかかってきた。
「破道の三十一"赤火砲"!」
咄嗟に退けることはできた。もちろん志波副隊長の身体だ。加減はした。だからこそ所詮時間稼ぎに過ぎないけど…。
浮「神崎! 朽木を連れて逃げてくれ…!」
「大丈夫なのか…浮竹ッ…!」
浮「ああ…朽木を頼む」
「…分かった」
私はルキアちゃんを担いでその場から離れた。単純な戦いならば浮竹が負けることはないだろう。…ただ、虚の存在だけを志波副隊長から抜き出せないものか…。いや、きっと難しいだろう。仮に霊体同士の融合だと考えれば…。