第8章 漆ノ刻~運命の夜~
上からは何を会話しているのかは分からない。でもきっと…志波副隊長にとって、戦うわけを整理する時間だったんだろう。
一定の間合いを保っていた志波副隊長だったが、斬魄刀を強く握り巨大な霊圧を放出した。
(…凄い霊圧。さすが志波副隊長。怒りの霊圧が…こんなに苦しいものなんて知らなかった)
実力は明らかだった。左触腕を切り落とし、圧倒的な速さと力の実力差がある。彼ならば簡単に勝利するだろう。そんな目処がついていた。
志波副隊長が彼の触腕に触れ、いよいよ切り倒す意志を見せた。
海「水天逆巻け《捩花》!!」
彼が解号を唱えた…それと同時に彼の斬魄刀が消失した。
(…!?)
『一夜毎に一度だけの能力だ。その夜、最初に儂の触腕に触れた者は、斬魄刀が消滅する!!!』
(…バカな。斬魄刀を消滅!? そんな能力が…)
虚は自身に圧倒的に有利な状況にもちこんだ。彼は混乱してしまっているのだろう…触腕に当たり鮮血が流れる。
ル「海燕殿!!」
冷静さを失ったのか、斬魄刀に手を掛け戦場へ向かおうとするルキアちゃん…。
(…ごめんね)
私は、斬魄刀に手を掛けようとしたその手を掴み、彼女を制止させた。
ル「懍殿…!? お…お放しください! 海燕殿…海燕殿を助けなければ!!」
「……」
戸惑うだろう。意味が分からないだろう。実戦経験が少ない彼女は、未熟ながらの疑問を抱いている筈だ。
浮「海燕を助けて…それで奴の誇りはどうなる?」
浮竹隊長が口を開く。
浮「お前が今力を貸せば、なるほど奴の命は救われるだろう。だがそれは同時に、奴の誇りを永遠に殺すことになる」
ルキアちゃんはその論に対して、声を荒らげ否定する。
ル「誇りがなんだというのですか!! 命に比べれば誇りなど!!」
浮「…いいか、よく憶えておけ。戦いには2つあり、我々は戦いの中に身を置く限り、常にそれを見極め続けねばならない。命を守るための戦いと、誇りを…守るための戦いと…! …今奴は誇りのために戦っている。妻の誇り。部下達の誇り。そして何より、やつ自身の誇りのために」