第8章 漆ノ刻~運命の夜~
後ろにいるルキアちゃんを見る。重く暗く、悲しそうな雰囲気だ。それはそうだろう。ルキアちゃんにとって志波副隊長は気さくに話し掛けてくれる、身分とか関係なく分け隔てなく関わってくれる上司。その妻は三席の女傑で、密かに憧れる対象であったことも考えられる。複雑な心境だろう。
「…志波副隊長は、何か明確な意志を持って行動に移していたように感じました。何か情報があるんじゃないですか?」
浮「…ああ。1つは、奴は移動型ではなく1ヶ所に巣を作り、そこに留まって捕食する常駐型の虚だということ。そしてもう1つは、その住処だ」
「…いいんですか、見届けなくて。彼、1人で行きますよ」
浮「…ああ」
「…正直、つまらない意地だと思いますけど」
浮「…そうだな。神崎はそう思うタイプだったな」
「別にその意地を否定するつもりはありませんよ。意地を張るには充分な理由だ」
浮「…朽木、神崎」
ル「は、はいッ!」
浮「海燕を追うぞ」
その夜―
逆三日月が妖しく輝く。百年前のあの日のように胸がザワつく。この虚の事件も、誰かが裏で動いている気がしてならない。
『匂いがするのぅ…頭の足らん、餌の匂いが! ひひっ!』
口から舌を出し、身体中の半分以上が触手のようなもので蠢いている。その姿は小さく、仮面が大きい。どうにも気色悪い姿だ。
ル「海燕殿、まずは私が出て様子を…」
ルキアちゃんが斬魄刀に手を掛け、虚に意識を向ける。しかし、その行動を志波副隊長が制止した。
海「隊長…俺1人で行かせてください」
その言葉にルキアちゃんは戸惑いの表情を浮かべる。何かを訴えるように…でも何も言い出せないような顔を。
浮「…ああ」
海「…懍」
「…なんですか?」
海「…ルキアを頼む」
「……はい」
志波副隊長の言葉には、どこか覚悟を決めたような…そんな圧を感じた。本当ならば、「ルキアを頼む」という言葉に対して否定の意志を見せたかった。でも…きっとここで彼の意志を否定しても、あの虚に向かって行っただろう。だったら私の役割は、彼の意志を汲むことだ。
志波副隊長は虚の場所へと降りる。静かな怒りを秘めて…。