第8章 漆ノ刻~運命の夜~
身支度をして自室を出る。まあ、特に気にするようなことじゃなかっただろう。たぶん。
外に出るって言っても、なんの宛もなくフラフラとしているだけだ。別に仕事がある訳じゃないし、自由に歩いていても咎められることはないだろう。完治してるしね。
瀞霊廷は今日も平和です。百年前のことなんて何事も無かったかのように。一般隊士でさえ欠伸をもらすくらい平和だ。百年前のことなんて知らないんだろうな。
『神崎さん。おはようございます!』
「うん、おはよう!」
あまり気にしていなかったが、私が覚醒した噂は瞬く間に広まったようだ。真央霊術院時代から私の噂が広まるのが早いことは変わらないみたい。いちいち報告する必要もないから、これが能力だというのであれば案外便利な力だ。もちろん、挨拶しに行くことが礼儀だということは分かっているけどね。
何も考えずに歩いていると、十三番隊隊舎に近付いてきた。
(折角だから、浮竹隊長に挨拶しとこう)
浮竹隊長に会うという明確な意志を持って歩みを進める。先程まで宛もなくフラフラとしていた時とは違って、なんか世界が輝いて見える気がする。意志があるっていいことなんだね。
だんだんと近付いてきたが、妙な霊圧の乱れを感じる。
(…志波副隊長?)
何かに戸惑い乱れが生じた霊圧に違和感を持った私は、嫌な胸騒ぎを感じながらも十三番隊隊舎へと向かった。
十三番隊隊舎―
何かがある…そう思いながら隊舎に入ると、入れ違いで志波副隊長に会った。
「あ、志波副隊長…どうなさったんですか?」
その声に反応することなく、強固な意志を持ってどこかへと走って行く。そのことに、妙な違和感を抱きつつ隊舎の奥へと向かった。
「……これは」
浮「うちの三席の…志波都の遺体だ…」
その場には、浮竹隊長とルキアちゃんがいた。どこか重々しい雰囲気に突っ込む勇気はなかった私にルキアちゃんは気付き、中へ通してもらった。
「だから志波副隊長は…」
浮「全滅だそうだ。彼女の部隊は。データ採集の前に全員が絶命したため…敵虚の能力は不明だ」
「不明…ですか。いくら偵察部隊とはいえ護廷隊士の一部隊を殲滅させるなんて…」
浮「だからこそ恐ろしいんだ。情報がないからな」
冷たくなった都さんを見る。下肢が喰われ、相当苦しかっただろう…