第8章 漆ノ刻~運命の夜~
京「…ていうことがあってねぇ」
ベッドに腰を掛けながら、過去に思いを馳せるように、伊勢副隊長に向かって話していた。もちろん、日常的なことだけだ。アジューカス一件や、私が襲われた一件のことは話していない。
伊「なるほど。今の神崎さんからは想像つきませんね」
京「だよねぇ。ホント丸くなったなぁって感じ」
「うるさいですよ。死神には1つや2つ恥ずかしい黒歴史くらいあるでしょう」
いつの間にか夕方は過ぎ、あたり一帯を闇で包んでいる。どうやら長く話し込んでしまったようだ。心地良い夜風が身体を撫でる。
「夜もふけてきましたし、もう寝ましょうよ」
伊「そうですね。面白いお話も聞けましたし」
「それ、わざわざ言う必要ありませんよねぇ?」
京「そうだね。じゃあ懍ちゃん、一緒に寝ようか!」
「そうですか。京楽隊長は永眠をお望みですか」
いい加減にどこかで区切りをつけないと、永遠に会話してしまう。くだらない会話と日常こそ至上とは言うものの、もう夜だ。身体をゆっくり休めましょうよ。
京楽隊長と伊勢副隊長と別れ、さっきまで隊長が座っていた私のベッドに潜る。薄い毛布1枚で充分なほど、今日は過ごしやすい夜。窓から見える星は、美しく煌めいていた。
翌朝―
起きた。頭が働かない。自分の寝相が悪いのか、いつの間にか毛布はベッドから落ちており、帯も緩くなって胸元と太腿があらわになっている。まあ、いつものことだ。朝は…そんな得意じゃない。神職だから早起きして境内の掃除…みたいなこと、したことない。めんどうだし。
軽く伸びをして、目を醒させる。ポリポリと頭を掻き、ボサボサの髪を整えようとした。するとそこに『今月号の瀞霊廷通信でーす』と、ひとりの男が隊舎へ入ってきた。その歩は徐々に私の部屋へと近づいて来ていることが分かる。
檜「これ、今月号の…ッ!?」
代々『瀞霊廷通信』は九番隊が編集を務める。だから、九番隊副隊長の檜佐木さんがうちの隊舎に来たんだろう。そこまでは別に違和感はない。しかし、何故彼は私を見て頬を赤らめているのだろうか。答えは単純明快だ。