第7章 陸ノ刻~荒んだ過去~
グウォァー!
形容し難い咆哮が、私の耳に届く。もう少しで見える。もう少しで…。
目の前には驚くべき光景が広がっていた。大虚の群れが空座町を闊歩していたのだ。アジューカスがギリアンを統括する存在であることは知っていたが、これほどの大虚を従えているとは想像していなかった。
(…ざっと数えて10体か…。アジューカスは何処に…)
大きい存在に目を奪われてばかりではダメだ。大虚を統括するアジューカスの存在を見つけて、退治しない限りはどうしようもない。
(…それにしても、アジューカスが大虚を連れて歩くなんて聞いたことないけど…)
血眼になって探すと、遂にアジューカスを発見できた。やはり小さい。円形の陣を組んだ大虚の群れの中にぽつんと歩いている。頭が良いのか、怯えているのか分からないが、大虚を倒してアジューカスの元へ向かうのは非常に面倒なものだろう。私はもう少しスマートなやり方でいかせてもらうけどね。
その群れに近付いた。何とも迫力がある黒壁のようにも見える。こんな巨大な存在が、ただの雑兵か。大きいから強い、という訳じゃないんだな。世の中は子供が考えるような単純なモノじゃないってことか。
(…丁度いいや)
私は斬魄刀に手をかけた。
「打靡け《雷切》」
そこには、大虚とアジューカスの亡骸が転がっていた。本来斬魄刀は、虚の罪を洗い流す役割を担う。むしろ、私は仕事をした訳だ。感謝してほしい。
(…それにしても)
この斬魄刀は、少々怖い。もしこの斬魄刀が私に向かって反旗を翻したら、すぐに殺されてしまうかもしれない。
(もう少しマシな始解だったら…)
コイツと対話を重ねて、安心して斬魄刀を振るうことが出来るように修行しないと…。修行なんて柄じゃないからダルいけど…。
時間にして、もう尸魂界へ帰投する頃合いだろう。私は、同じグループの元へと戻った。
『れ、霊圧の消失が確認出来ましたけど…何をなさったのですか?』
「…別に。退治しただけ…」
『アジューカスを!? まだ実戦も重ねてないのに…信じらんねぇ』
『や、やっぱり80地区出身って…』
「どうでもいいけど、さっさと帰ろうよ。ここにいる必要はもうないでしょ」
『そ、そうですね』
解錠をし、断界という薄暗い世界を通って尸魂界へ帰投した。